道具ケア完全ガイド

設備における主要フィルターの劣化診断、適切な選定、交換とトラブルシューティング

Tags: フィルター, 設備メンテナンス, 劣化診断, トラブルシューティング, 交換手順

はじめに:設備保全におけるフィルターの重要性

設備メンテナンスにおいて、各種システムに組み込まれているフィルターは、機器の性能維持、寿命延長、そして突発的なトラブル防止に不可欠な役割を果たします。油圧システム、空圧システム、潤滑システム、冷却水ラインなど、流体を使用する多くの箇所でフィルターが異物除去の最後の砦となります。フィルターの機能不全は、摩耗の促進、バルブの固着、ポンプやシリンダーの損傷、熱交換効率の低下など、システム全体の信頼性低下や故障に直結します。

本稿では、設備で一般的に使用される主要フィルターの劣化診断、適切な選定、効率的な交換手順、そして現場で発生しやすいトラブルとその解決策について、実践的な視点から解説します。

設備における主要フィルターの種類とその役割

設備の種類や流体の性質に応じて、様々な方式のフィルターが使用されます。主な種類とそれぞれの役割を理解することは、適切なメンテナンスの第一歩となります。

フィルターの劣化診断と交換時期の判断

フィルターは消耗品であり、異物を捕捉することで徐々に目詰まりを起こし、圧力損失が増大します。性能が低下したフィルターを使い続けることは、システムに悪影響を及ぼします。適切な交換時期を見極めることが重要です。

劣化の兆候

  1. 圧力差の上昇: フィルターエレメントの前後の圧力差(差圧)が設計値またはメーカー推奨の交換差圧に達した場合、フィルターが目詰まりしていることを示します。多くのシステムには差圧計や差圧スイッチが設けられており、これを監視することが最も直接的かつ確実な診断方法です。差圧スイッチが作動した場合は、速やかに交換を検討する必要があります。
  2. 流量の低下: 目詰まりによりフィルターを通過できる流体の量が減少し、システム全体の流量が低下する場合があります。これは特にサクションフィルターやリターンラインフィルターで顕著になることがあります。
  3. システム性能の低下: 油圧システムであれば応答性の低下や作動速度の低下、空圧システムであれば機器の出力不足などが、フィルターの詰まりに起因することがあります。
  4. 流体の汚染度増加: フィルターを通過した後の流体中に異物が多く検出される場合、フィルターエレメントの破損や劣化が考えられます。油圧作動油や潤滑油の粒子カウンターによる定期的な清浄度測定は有効な診断方法です。
  5. フィルターエレメントの外観: 取り外したフィルターエレメントに過度な変形、破損、異物の付着状況などを観察することで、フィルターの状態やシステム内部の異常(大量の摩耗粉発生など)を推測できます。

交換時期の判断基準

適切なフィルターの選定

既存のフィルターを交換する場合でも、新規で追加する場合でも、システムに適したフィルターを選定することが重要です。不適切なフィルターは、ろ過不良、過大な圧力損失、早期目詰まり、エレメント破損などを引き起こす可能性があります。

選定時の考慮事項

メーカーのカタログや技術資料には、これらの選定に必要な情報(性能曲線、材質情報、寸法、互換性リストなど)が記載されています。不明な点はメーカーに問い合わせることが確実です。

フィルター交換の標準手順と注意点

フィルター交換は一般的に以下の手順で行いますが、設備の種類や構造により詳細は異なります。安全確保を最優先に行います。

  1. 設備の停止と安全確保: 対象設備の運転を停止し、不用意な再起動を防ぐための措置(電源遮断、ロックアウト/タグアウトなど)を講じます。油圧や空圧システムの場合は、蓄圧されたエネルギーを開放します。
  2. システムの圧力開放: フィルターが組み込まれている配管内の圧力が完全にゼロになっていることを確認します。圧力計の指示や、システムの排気/ドレンバルブ開放などで行います。
  3. 旧フィルターの取り外し:
    • 周辺を清掃し、ゴミや汚れがシステムに入り込むのを防ぎます。
    • フィルターハウジングを開ける、またはカートリッジ/エレメントを緩めて取り外します。この際、流体が漏れる場合があるため、適切な受け皿を用意し、保護具(手袋、保護メガネなど)を着用します。
    • 取り外したエレメントは、今後の診断のために一時保管するか、適切に廃棄します。
  4. ハウジング内部の清掃: ハウジング内に残った流体や沈殿物を清掃します。清掃時に異物をシステム側に落とし込まないよう注意します。
  5. 新フィルターの取り付け準備:
    • 新しいフィルターエレメントが正しい型番であることを確認します。
    • Oリングやパッキンが付属している場合は、新しいものを使用し、取り付け前に推奨される潤滑剤(システム流体と同種など)を薄く塗布します。
    • エレメントに変形や破損がないか確認します。
  6. 新フィルターの取り付け:
    • エレメントを正しい向きでハウジングに挿入します。
    • ハウジングカバーや固定具を規定トルクで締め付けます。過大な締め付けはパッキンやハウジングの破損につながる可能性があります。
  7. システムへの復帰準備: 排気弁やドレン弁を閉めます。必要に応じて、システム流体を追加します。
  8. エア抜き(油圧・空圧の場合)/フラッシング(水系の場合): システム内に混入した空気を抜き、フィルターや配管を流体で満たします。特に油圧システムではエアが残るとキャビテーションの原因となるため、丁寧なエア抜きが必要です。水系では、フィルター交換時に剥がれ落ちた微細な異物を洗い流すためのフラッシングが有効な場合があります。
  9. 動作確認: システムをゆっくりと起動し、圧力計や流量計を確認します。フィルターハウジングからの漏れがないか、差圧が正常値を示しているかなどを確認します。必要に応じて試運転を行い、異常がないか確認します。
  10. 記録: 交換日、交換フィルターの型番、次回交換予定などをメンテナンス記録に残します。

現場でのフィルター関連トラブルシューティング

現場では、フィルター交換に関わる様々なトラブルが発生する可能性があります。冷静に原因を特定し、適切に対処することが求められます。

1. フィルター交換後の異常な圧力変化

2. フィルターからの漏洩

3. フィルターの早期目詰まり

4. 交換時にエレメントがハウジングに固着している

フィルターの耐久性を高めるための追加の注意点

フィルター自体の耐久性や性能を最大限に引き出すためには、以下の点にも留意が必要です。

まとめ

設備における各種フィルターは、一見単純な構成要素に見えますが、その適切な管理は設備の安定稼働と長寿命化に不可欠です。フィルターの劣化兆候を見逃さず、差圧管理を中心とした診断に基づき、適切な時期に交換することが重要です。フィルター選定においては、ろ過精度、流量、圧力定格などをシステム要求に合わせて慎重に検討し、メーカー情報を活用します。現場でのトラブルに対しては、手順を遵守した確実な交換作業、そしてトラブル発生時の論理的な原因特定と対策実施が求められます。

日々のメンテナンス業務において、フィルターを単なる消耗品として扱うのではなく、システムを保護する重要な機能部品として認識し、その状態を注意深く監視することで、設備の信頼性向上に大きく貢献することができます。